スポンサーリンク

子供への影響~発達障害は遺伝するのか?

スポンサーリンク

支えることに疲れを感じて

「私はどうしてこんなにも疲れてしまうんだろう」
結婚して数年。夫の特性に気づいたのは、同じ会話が何度もかみ合わなくなった頃だった。小さなすれ違いが積み重なるたびに、心が少しずつすり減っていった。

夫は悪気があるわけではない。理解したい、歩み寄りたいと何度も思った。それでも、感情の共有が難しく、こちらの思いが届かないことが続くと、「愛情」や「努力」では解決できない壁の存在を感じ始めた。

やがて私は、自分が疲れ切っていることに気づいた。体は動いているのに、心が動かない。笑う気力も涙を流す余裕もなくなり、まるで透明になっていくような感覚だった。
その頃、インターネットで偶然見つけた言葉が「カサンドラ症候群」だった。発達障害のあるパートナーを支える中で、孤立感や心身の不調を抱える状態。まさに、自分のことだと思った。


カサンドラ症候群と向き合う中で生まれた「もう一つの不安」

医療機関に相談し、うつ状態だと診断を受けた。治療を続ける中で少しずつ心の整理が進んできたが、私の中に消えない不安があった。
それは、「もし自分たちに子どもができたら、発達障害は遺伝するのだろうか」ということ。

夫が発達障害の診断を受けている今、子どもにもその特性が現れる可能性はあるのか。
そして、もしそうだった場合、私はどのように支えればいいのか。
そう考え始めると、頭の中が混乱して、夜も眠れなくなることがあった。

カサンドラ症候群の根っこには、“理解したいのに届かない関係性への苦しみ”がある。
だからこそ、我が子に同じような壁を感じたらと思うと、恐怖にも似た不安がよぎるのだ。


発達障害は「遺伝する」のか?その前に知っておきたいこと

発達障害と遺伝の関係については、長い間多くの研究が行われている。
しかし、「発達障害=遺伝する」という単純な構図では語れない。実際のところ、遺伝的要因だけでなく、背景には複雑な環境要因が関わっていることがわかってきている。

たとえば、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などは、遺伝的影響が一定程度あると医学的にも説明されている。兄弟姉妹や親子の間で特性が似る傾向は、多くの研究によって報告されている。

一方で、同じ家庭で育っても全く異なる特性を持つ子どもも少なくない。つまり「遺伝する」というよりは、「遺伝しやすい特性が受け継がれる」可能性がある、というのが現在の科学的理解に近い。


遺伝子だけで決まらない「発達」のプロセス

近年の研究では、発達障害は“多因子遺伝”の影響を受けるとされる。
これは、単一の遺伝子が原因ではなく、複数の遺伝子や環境要因が重なり合って特性として現れるという考え方だ。

たとえば、脳の発達や神経伝達物質の働きに関係する遺伝的特徴を持っていても、幼少期の環境、人との関わり、ストレス、栄養、睡眠など、さまざまな要因が組み合わさって個々の発達に影響を与える。
つまり、「遺伝子の影響があっても、それがどのように表れるかは、環境との相互作用しだい」なのだ。

この仕組みを理解したとき、私は少しホッとした。
遺伝がすべてではなく、「環境を整えること」が未来を支える力になると知れたからだ。


発達障害の親のもとで育つ子どもが抱えるリスク

とはいえ、発達障害を抱えるパートナーとの生活の中で、子どもの成長にどのような影響が出るのかは気になるところだ。
いくつかの研究では、発達障害の親のもとに生まれた子どもは、同様の特性を持つ割合がやや高い傾向にあるとされている。

しかし重要なのは、「親の特性自体」よりも、「家庭内でのストレス」が子どもの発達に影響を与えるという点だ。
カサンドラ状態に陥っている親が、常に心身の限界を感じていると、どうしても家庭全体の空気が重くなる。
その空気は、敏感な子どもに確実に伝わる。

だからこそ、発達障害が遺伝するかという点だけでなく、子どもが安心して成長できる「環境づくり」に目を向けることがとても大切だと感じる。


私が専門機関に相談して分かったこと

私は夫の特性と自分の心の問題を整理するため、家庭支援センターや発達支援の専門機関へ相談した。
そこで言われたのは、「子どもの発達は、生まれ持つ特性と関わり方の両方で育まれる」ということだった。

専門家はこう続けた。
「もし将来、お子さんに特性が見られたとしても、それは“個性としての特性”です。早期に理解して関わることで、生きづらさは軽減できます。」

その言葉に少し涙が出た。
私は“遺伝”という言葉に不安を感じていたけれど、実際には“理解の仕方”次第で未来は変わることを教えられたのだ。


発達障害と「家族内での支援バランス」

カサンドラ症候群に陥っている人の多くは、支えることに全力を注いできた人だ。
しかしその姿勢を続けると、家庭内の支援バランスが崩れ、子どもが“気を使う立場”になることがある。
たとえ遺伝的特性を持っていなかったとしても、家庭の中で常に緊張感が張り詰めていると、情緒が安定しにくくなることもある。

私自身も、夫へのサポートを優先するあまり、家の中が“静かな戦場”のようになっていた。
子どもを持つことを考えたとき、まず必要なのは「自分自身が落ち着いていられる環境」だったのだと思う。

科学が伝える「遺伝の割合」

前編でも触れたように、「発達障害は遺伝するのか?」という問いに対して、医学的な答えは「部分的に遺伝の影響がある」というものだ。
ただし、その割合は障害の種類によって異なり、加えて環境的要因の影響も無視できない。

たとえば、自閉スペクトラム症(ASD)の場合、双子を対象にした研究では、遺伝による影響が60〜80%程度と報告されている。つまり、環境的な要素も20〜40%近く影響しているということだ。
注意欠如・多動症(ADHD)でも50〜70%ほどの遺伝的要因があるとする報告が多いが、発症そのものを決めるのは“遺伝子の組み合わせ”と“育ちの環境”の両方だとされている。

重要なのは、遺伝=必ず発症するというわけではなく、むしろ「発達の多様性をもたらす基盤」として存在するという点だ。
子どもがその特性をどう発揮していくかは、周囲のサポートによって大きく変わる。


遺伝の影響を「怖がらない」ということ

遺伝に不安を感じるのは自然なことだ。
けれど、科学的に見れば遺伝の影響がどうあれ、“環境によって発達は変化する”という事実がある。人の脳や心の発達は、一生を通して育っていくプロセスであり、「スタート地点は同じでも、歩み方は人それぞれ」だ。

近年では、“遺伝的リスク”という考え方を、“発達的傾向”として捉え直すようになっている。
つまり、発達障害の傾向を持つ親から受け継がれたものは、必ずしも「障害」ではなく、「思考の特性」「集中の方向性」「こだわりの強さ」などとして現れることも多い。
それを理解し、活かす環境があれば、その傾向は「個性」へと変わる。

この視点は、カサンドラ症候群で疲れた心にも希望を与えてくれる。
「夫の特性が子どもにも出るかもしれない」という不安を、「その特性がどう花開くかを見守っていく」と考え直すだけで、親子関係の見方が大きく変わる。


子どもの「気質」を理解することから始めよう

心理学では、子どもの性格や行動を“気質(temperament)”と呼ぶ。
生まれつきもっている反応のしやすさや、感情の強さなどを指すが、これは遺伝と環境の影響が混ざり合ったもので、発達障害の有無に関係なく、すべての子に存在する。

たとえば、感覚に敏感な子、ひとり遊びが好きな子、初対面の人に慣れるまで時間がかかる子。これらは“発達障害の兆候”ではなく、“気質の違い”であることも多い。
この点を理解しておくと、「夫に似ているかもしれない」と不安になるよりも、「この子らしさだ」と受け止めやすくなる。

家庭の中で親が安心して子どもを見守ることが、最大の環境支援になる。
発達の過程では、「比較」ではなく「気づき」が大切だ。


子どもを支える「環境要因」には何があるのか

発達障害の研究において、遺伝と同じくらい注目されているのが「環境要因」だ。
環境といっても、家庭環境だけではなく、日常生活すべてに関わる。

  1. 家庭の安心感
    親が穏やかに過ごしていれば、子どもの脳にも安心感が伝わり、情緒の安定につながる。カサンドラ状態で疲れ切っている場合は、まず親が休むことが環境づくりの第一歩だ。
  2. 生活リズム
    睡眠、食事、運動、光のあたり方など、日々のリズムは神経発達と深く関係する。朝の太陽光を浴びることで、脳の覚醒リズムが整い、集中力の発達を支えると言われている。
  3. コミュニケーションの形
    子どもが「自分の思いを言葉にできる関係」は、自己肯定感を育てる上で大切だ。相手の反応が薄くても、こちらが一方的に話して終わりではなく、「分かろうとする姿勢」を続けることで、少しずつ関係は形を変えていく。

環境の力は侮れない。
仮に子どもが発達障害の傾向を持っていたとしても、安心できる環境があれば、その子の生きづらさは大幅に減る。


カサンドラ症候群の親だからこそできる“理解の形”

カサンドラ症候群を経験した親には、特別な強みがあると思っている。
それは、「相手を理解しようと努力する感性」が、すでに備わっていることだ。
カサンドラ経験を経た人は、感情のすれ違いや孤独の痛みをよく知っている。だからこそ、子どもが小さなサインを出したときに、それを見逃さない目を持っている。

発達特性を持つ子の中には、感情表現が少ない子、人との距離感が独特な子もいる。
けれど、カサンドラ経験を持つ親なら、そうした違いに敏感に気づき、どう寄り添うかを考えられる。
それは、“支えすぎて疲れた”経験を経たからこそ身についた力でもある。


科学よりも大切な「安心の共有」

私が専門家や医師から伝えられた中で一番印象に残っているのは、「お母さん(お父さん)が安心していること自体が、子どもの発達にとって最大の支援になります」という言葉だった。

遺伝や発達のメカニズムを理解することは確かに大切だが、子どもは親の表情や声のトーンから“安心”を学ぶ。親が常に不安にとらわれていると、それが家庭全体の空気を覆ってしまう。
だからこそ、「完璧に支えることより、自分が安心して生きること」を優先していい。

カサンドラ症候群からの回復とは、単にストレスを減らすことではなく、“安心を取り戻すこと”でもあるのだ。


遺伝の不安より「今できる支援」を見つめて

私自身、長いあいだ「遺伝」という言葉にとらわれていた。
けれど、学びを重ねるうちに気づいたのは、「未来を怖がるより、今できることを積み重ねる方が、子どもの可能性を広げる」ということだった。

・早期の発達相談や検査をためらわない
・子どもの得意分野を伸ばす環境を整える
・親自身もカウンセリングや支援を利用する

こうした一つひとつの行動が、子どもの生きやすさに直結する。
親の焦りが少し和らげば、子どもも安心して自分のペースで育っていける。


未来への視点を変える

今の私は、「もし子どもに発達特性があっても大丈夫」と思えるようになった。
それは、遺伝を恐れていた頃よりも、はるかに穏やかな心だ。

発達障害は、遺伝するかどうかよりも、「どう理解し、生かすか」で未来が決まる。
子どもの特性を恐れず、違いを受け入れる姿勢そのものが、次の世代への希望になる。
そして、その理解の原点は、“支えようとして傷ついた自分”を癒すことから始まる。


終わりに

発達障害の遺伝について調べれば調べるほど、確かな答えはひとつだと気づく。
それは、「遺伝は運命ではない」ということ。

子どもの発達を決めるのは、遺伝子そのものではなく、日々の関わり方や家庭のぬくもりだ。
そして、カサンドラ症候群を乗り越えようとしている親こそ、そのぬくもりを提供できる力を持っている。

不安な夜が続くときもあるだろう。けれど、その不安と向き合う姿こそが、何よりも強く、やさしい親の証なのだと思う。

スポンサーリンク

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました