
「もう限界かもしれない」——そう感じたことはありませんか?
発達障害を抱える大人を支える立場にある人の多くは、強い責任感と優しさを持っています。家族、パートナー、職場の同僚や上司として、相手の特性を理解しようと努力を重ねる。しかし、その努力が報われず、むしろ自分の心がすり減っていく——そんな経験をしていませんか。
この状態を心理学では 「カサンドラ症候群」 と呼びます。
もともとはギリシャ神話の登場人物「カサンドラ」に由来します。彼女は未来を予言する力を持ちながら、誰にも信じてもらえず孤独に苦しみました。発達障害を持つパートナーや家族を支える人が、「理解してもらえない孤独」によって心のバランスを崩してしまう状態を指します。
本記事では、サポートの重荷で抑うつ的になってしまった人に向けて、心を立て直すための3つの方法を紹介します。
大切なのは、「あなた自身の回復を優先していい」ということです。
1. 「助けること」から「共にいること」へのシフト
まず考えたいのは、「支える」という言葉の意味です。
多くの支援者は「相手を変えなければ」と思い込んでしまいます。「もう少しこうしてくれたら」「何度言っても同じことをしてしまう」と、相手の言動に目が向き、自分を責め、疲弊します。
しかし、発達障害の特性は「努力で変えられる部分」と「どうしても変わらない部分」があります。相手を“治す”ことにエネルギーを費やすと、結果的に双方が苦しくなります。
ここで大切なのは、発想の転換です。
「助ける」ことから「共にいる」ことへ。
相手の問題を自分が解決するのではなく、「この人とどう折り合いをつけて暮らしていけるか」を考える。つまり、サポートの“役割”ではなく、“関係そのもの”に焦点を移すのです。
共にいる姿勢には、「相手の感情を無理に読み取ろうとしない」「共感しようと頑張りすぎない」ことも含まれます。
無理に理解しようとするより、「わからないけれど、あなたを大切に思っている」と伝える方が、結果的に心の距離を柔らかく保てます。
2. 感情を「見える形」にしてセルフケアを
カサンドラ症候群に陥る人の多くは、自分の感情を後回しにしがちです。「相手のために」と我慢を重ね、気づけば怒りや悲しみを感じることすら麻痺してしまうのです。
そこで有効なのが、「感情を見える化する」セルフケアです。具体的には以下のような方法があります。
- 日記やジャーナルを書く:1日の終わりに、自分の感情を3行で書く。「今日は疲れた」「悲しかった」など、評価を入れずに事実として書き出します。
- 言語化してみる:「〇〇されて怒っている」ではなく、「怒りを感じている自分に気づいた」と、距離を取る表現にすると心が整理されやすくなります。
- 信頼できる人に話す:心理士やピアサポートグループなど、批判されない場所で思いを話すことが、孤独の解消につながります。
抑うつ状態のときは「何をしても意味がない」と感じやすいものですが、自分の感情を言葉にすると、少しずつ思考に余白が戻ってきます。
感情を可視化することは、自分の存在を再確認する作業でもあります。
3. 自分を守る「境界線」を持つ
サポートを続けるうちに、「どこまで関わるべきか」があいまいになりがちです。相手の困りごとを自分の課題として背負い込み、結果的にエネルギーが枯渇します。
ここで重要なのが「境界線(バウンダリー)」です。
境界線とは、自分の心や時間、エネルギーを守るための“心理的な線引き”のこと。「ここまではできるけれど、ここから先は無理」と明確に自覚し、それを相手にも伝える勇気を持つことです。
たとえば、以下のように考えてみましょう。
- 相手が感情的になったとき、自分まで巻き込まれないように一時的に距離を取る。
- 「今日これ以上話すのはつらい」と言葉で伝える。
- 相手の問題を放置する罪悪感を感じたとき、「私は私の生活を守る責任がある」と言い聞かせる。
境界線を持つことは、冷たさではなく“自己尊重”です。
あなたが壊れてしまえば、結局誰も幸せにはなれません。まず自分が穏やかであること——それがサポートの第一歩なのです。
「幸せに支える」という新しい発想
「支える=我慢すること」と感じてきた人にとって、「自分を優先していい」と言われても、最初は違和感を覚えるかもしれません。
けれど、あなたが笑顔を取り戻さない限り、周囲に安心感は生まれません。サポートを“義務”としてではなく、“選択”として再定義しましょう。
幸せに支えるとは、「相手を変えること」ではなく、「自分の幸せの枠を広げること」です。相手の行動がどうであれ、自分が安定していればいい。そのためには、趣味、睡眠、食事、友人、自然——あなたを支えてくれる要素と関係をしっかり育てることが大切です。
抑うつが深い場合には、専門医・心理士への相談も選択肢です。薬物療法やカウンセリングを通して、感情のコントロールを取り戻す手助けが得られます。自力で何とかしようとせず、「頼る勇気」を持ちましょう。
終わりに
あなたが今、どれだけ疲れていても、それは「相手を思う気持ち」がある証拠です。
しかし、その優しさを自分自身にも向けてください。
発達障害を持つ大人のサポートは、長い道のりかもしれません。けれど、あなたの心がすり減る必要はありません。
助けようとするより、共に歩もう。
犠牲になるより、自分を守ろう。
その小さな選択が、あなたの抑うつを和らげる最初の一歩になります。
そして、忘れないでください。
「あなたも支えられていい」のです。

